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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(し)18号 決定 1955年6月03日

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

弁護人丸目美良の抗告理由について。

所論は弁護人のした異議の申立を棄却した原決定の憲法一一条、同三二条違反を主張するのであるが、その実質は、結局、控訴趣意書差出最終日の通知に関する単なる刑訴法又は刑訴規則違背の主張に帰着し、刑訴四三三条所定の事由にあたらない(昭和二五年(あ)第二七七七号、同二七年五月六日第三小法廷判決、判例集六巻五号七三三頁参照)。

そうして、被告人金昌善に対する窃盗被告事件記録を見ると、東京高等裁判所は昭和三〇年一月二〇日に控訴申立人である被告人に対し、控訴趣意書差出最終日を同年二月二三日とする通知書を、弁護人選任に関する通知書と共に送達したが、その後同年二月一〇日に至って、被告人と弁護人丸目美良の連署した弁護人選任届が裁判所に提出されたが、右弁護人に対しては、控訴趣意書差出最終日の通知はなされなかったこと所論のとおりである。

しかし、刑訴規則二三六条一項が、控訴申立人に弁護人があるときは、弁護人にも控訴趣意書差出最終日を通知しなければならないとしているのは、最終日指定当時既に選任されている弁護人があるときは、その弁護人にも最終日を通知することを要するとした趣旨に解すべきであって、裁判所が控訴趣意書差出最終日を通知する際に、被告人に現に弁護人のない場合には、一旦弁護人を附したうえでなければこれをすることができないものであると解すべきでないこと、原決定の判示しているとおりであり、また、当裁判所の判例とするところである(前掲第三小法廷の判決及び昭和二五年(し)第二七号、同二六年二月九日第二小法廷決定、判例集五巻三号三九七頁参照)。従って東京高等裁判所が前記のような控訴趣意書差出最終日を指定通知した後に弁護人選任届が裁判所に提出された弁護人丸目美良に対して、右最終日の通知をしなかったことは当然であり、この点に関し、右裁判所の手続には何等違法はない。しかも、弁護人が選任されてから、控訴趣意書差出最終日までには二週間の余裕があり、かつ、本件窃盗被告事件の公訴事実は、被告人が道路上において、自動車内の衣類を窃取したという簡単な一個の事実であって、記録も大部のものでなく、これを精査するのに多くの日時を要する程のものではないのであるから、弁護人は被告人又は裁判所と十分な連絡をとれば、控訴趣意書差出最終日が何日であるかを知ることも、その差出最終日までに控訴趣意書を提出することも容易にできた訳である。(なお、弁護人の事務所は浦和市内に、被告人の保釈制限住居は当時埼玉県栗橋町にある。)それが、右期間内に提出できなかったということは弁護人側に責任があるものといわなければならない。されば、本件特別抗告の申立は、到底採用し得ないものである。

よって、刑訴四三四条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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